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ひとり旅以外のわたしの旅1

学生時代の仲間との旅
2007年初夏
Life style

 大学で同じゼミの仲間だったO君から突然メールが来たのは、2006年の初めごろだった。久しぶりにゼミの仲間が集まって飲もうという、大変結構な内容だ。
 15名のゼミメンバーのうち、10名ほどが集まり盛会だった。大学を卒業してから36年、指導教官だったY先生は早くに亡くなられていたが、還暦を前にしたゼミメンバー全員はすこぶる元気で、昔話に花が咲いた。

 とても楽しかったので、またやろうということになり、2006年後半、もう一度飲み会を開いた。飽きることもなく、再び盛り上った。またまたやろうということで、今度は趣向を変えて、旅行をすることになった。ゼミ幹事であるO君の発案。彼は学業を除くすべての面で、ゼミ仲間を引っ張る抜群のリーダーシップを備えている。彼の発議に、誰が反対する者がいるだろう。

 そして2007年5月12,13の両日、O君の周到なる手配のもと、伊豆湯が島温泉への一泊旅行が敢行された。指定された東京発の踊り子号に、わたしは小田原から乗車した。

 東京から乗車した仲間が、他乗客の迷惑も構わず、車中で大宴会を繰り広げているかと思いきや、誰もがペットボトルのお茶などを前に置き、上品な会話を交わしているではないか。オイオイと、ちょっと拍子抜けしたが、・・・そうなのだ。我らは誇り高きYゼミのメンバー。恥ずかしいことをしてはいけない。

 熱海で、神戸から参加のM君が合流。多くの仲間にとっては、卒業以来の対面。これで全員9名打ちそろい、目的地の湯が島温泉を目指した。

 幾多の著名人に愛されてきた老舗旅館に到着。誇り高きYゼミ御一行を迎えるに相応しく、格調高く漂う木の香が、人々をやさしく包み込むような宿だ。楚々とした若女将の丁重なる出迎えを受け、気分が乗ったところで、O君による会費の徴収。

 O君がかき集めた札束を数える音も、旅館背後の清流の妙なる音にかき消され、せめて今宵一晩世俗を離れた気分に浸りたいものだ。

 大広間での大宴会。各人が持ち込んだ幾多の酒瓶も、渇水期のダムのごとく、どんどん水位が下がってゆく。次々運ばれる料理を、片っぱしから片づけてゆくやつ。酒ばかり飲んで、料理が一向に減らないやつ。そういえばあいつは、いつもゼミの課題をやり残して、先生に怒られていたことを思い出す。

 40年近い年月が過ぎ、ここにいる9人は9通りの人生を過ごしてきたわけだが、それぞれが持っていた学生時代の基本的習性を、みなしっかりと維持していて、とてもおかしい。

 部屋が大きすぎて、向かい合う仲間の距離が遠すぎると最初は感じたが、酒が入るに従って、そんな距離感は雲散霧消。

 サラリーマンを辞めて陶芸の道に入ったH君が、ゼミ仲間のためにそれぞれ違う9種類のぐい飲みをプレゼントしてくれた。くじ引きで分配されたそれぞれのぐい飲みを鑑賞しながら、意味不明の蘊蓄を傾けるヤツ。中身の酒にしか関心がなく、容器はどうでもいいヤツ。オレのが一番小さいと文句を言う単なるバカ。キャラはみな、昔のままだ。

 わがYゼミは、学部首席のN君を輩出した輝かしいゼミなのだが(現在地方の大学教授のN君は不参加)、残り14名はけして誇れる学業を上げてはいない。ゼミの行われる先生の研究室で、先生から死角となる、つい立の背後の席を争った仲なのだ。

 それなのに、オレは面接を受けずにゼミに参加できたとか、オマエは先生に頼み込んでやっと入れてもらったなどと、他人が聞けば、目くそ鼻くそ的な差別化議論も交わされた。

 この前この仲間で旅行したのは、まだ学生だった38年前。山梨県の山奥の温泉に向かったが、途中でバスが故障して、最後は歩いて温泉に到達。着いた旅館が停電で、ろうそくの下でも麻雀を強行。先生がひとり勝ちで、貧乏学生からカネを巻き上げた…などなど、昔の連中の顔を見れば、長期間凍結されていた記憶が、次々と解凍されてゆく愉快さは格別だ。

 部屋を移しての二次会。昔話は尽きて、今日的な話題が中心となる。友人が最近死んだ話。遺言は今から用意すべきだとの主張。それに絡む相続分与の話。ファイナンシャルプランナーであるY君の節税対策即席講座など、急に話が現実的になる。

 人生は早くも晩年に差し掛かる。死の準備段階が始まろうとしている。昔は徹夜で飲み明かしたやつが、今日は力尽きて、部屋の隅で高いびきをかいている。宿の外は漆黒の世界。渓流を渡る一陣の風に乗って、霊魂が窓ガラスを叩く。

 「オイ、湿っぽい話はやめて女の話をしようぜ!」
雰囲気は一転。次々と出てくる、憧れの女性、理想の女性像。
佐久間良子、司葉子、若尾文子…吹雪の樺太国境を恋人と突破した女優はエエト、誰だっけ?

 ちょっと待った!
 もっと若い女は出てこないのか!
 じゃあ、吉永小百合!まだまだである。彼女だってオレタチより年上だ…

 他愛無い話でお開き。まだ12時をちょっと過ぎたところ。深夜のラジオ放送、パックインミュージックは、これからが佳境だというのに。
でも還暦前後の団体さんにとっては、これが潮時だ。

 翌朝は整然と起床、整然と付近を散策、整然と朝食。そしてゴルフもせず、観光もせず、ゼミ仲間たちは三々五々、秋の飲み会での再会を約して、家路へと向かったのでありました。

 最後までわたしと一緒だったY君は、熱海で下車する。彼は、老人ホームで一人暮らしの母を訪ねると言う。そういえば、今日は母の日だ。家にいる88歳のおふくろの顔が浮かんだ。まだまだ面倒みなくてはいけない人がいる。死の準備は先送りしてよさそうだ。団塊のゼミ仲間たち、誰もがまだ、勝負の季節を終えていない。

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